顎関節症とは?
以前の歯科業界では、「むし歯」と「歯周病」が2大疾患といわれてきましたが、
最近は第3の疾患として「顎関節症」が多くなっているといわれています。
これは、あごの関節を中心とした顔面から首にかけての疾患です。しかし、全身にまで影響を及ぼすこともめずらしくありません。
顎関節症は、過去数十年間にわたって、主に歯科の領域から研究と臨床が進められていますが、さまざまな症状が身体の各部に現れ、病態や原因、咀嚼(そしゃく)に起こる痛みなどに不明確な点が多く、治療法も確立されていません。
慢性的な痛みに悩まされることが多い疾患ですが、症状が現れてから一カ月以内に診療を受けにくる患者様は全体の一割未満と少なく、多くの人が最初のうちは痛みを我慢してしまう傾向があるようです。
しかし、潜在患者を含めると、日本全人口の約半分は顎関節症にかかっているといわれるほどです。
20代~30代の女性に急増
顎関節症の患者はここ10数年で15倍にも増加したともいわれ、お子様から高齢者まで幅広くみられる病気です。
年齢分布をみますと10代半ばから増え始め20~30代がピーク、女性は男性の2~3倍の来院数となっています。この原因としては、「女性のほうが筋肉の緊張やストレスに対して感受性が高く、痛みに敏感で健康に対する感心が高い」、「男性よりも骨格や靱帯が弱い」、「女性ホルモンに関係がある」などの説があります。
また、近年患者数が増加している点からを考えると、最近の若年層に顕著な食習慣、生活習慣などにも関連があるのではないかと考えられています。
症状について
「開かない」・「痛い」・「音がする」が、顎関節症の3大主症状といわれます。
さらに顎関節症のおもな症状は、あと2つ足して、全部で5つあります。
これらの症状がひとつ、もしくはいくつか重なって現れるのが特徴です。
- 1. あごが痛む
- 痛みは、顎関節および周辺の頬やこめかみに起こりやすいといわれています。
さらに、口の開け閉め、あくび、食べ物を噛む時など、あごを動かした時に痛むのが特徴です。
あごの動きに関係なく痛む場合は、顎関節症ではなく、他の病気の可能性も考えられます。 - 2. 口が大きく開けられない(開口障害)
- 顎関節が正常な人は、縦に指三本分 (40~50㎜) 入りますが、顎関節症の患者様は、指が2本程度(30mm)、もしくはそれ以下しか入らなくなってしまうケースがみられます。 あごを動かすと痛むため、無意識に動きを抑えてしまっている場合と、顎関節の異常で口が大きく開けられない場合とがあります。発症には個人差があり、いきなり口が開かなくなる場合もあれば、徐々に開きづらくなっていく場合もあります。
- 3. あごを動かすと音がする(関節雑音)
- あごを動かしたときに、耳の前あたりで「カクカク」といった音がします。音には個人差があり、「ジャリジャリ」、もしくは「ミシミシ」といった音(「クリック音」や「捻髪音」)の場合もあります。
- 4. 噛み合わせに違和感がある
- あごの関節や筋肉に問題があると、あごの動きに変化が生じて噛み合わせが変わることがあります。その時には急に噛み合せが変わったように感じるはずです。異常を感じたら、まずはご相談下さい。
- 5. 口を完全に閉じることができない
- 非常にまれなケースですが、あごの関節内構造の異常のために上下の歯列間に隙間ができてしまい、口が完全に閉じられなくなる場合があります。
原因について
顎関節症の原因については、さまざまな説が報告されていますが、それぞれ一部的には確認されているものの、解明されるところまではいたっていません。
大別すると
- 噛み合わせの異常が原因となる咬合因子
- 精神的な緊張ストレスや高血圧、過労などが原因となる全身的因子
- むちうち症や不自然な姿勢を続けることによって引き起こされる外傷因子
があげられます。また、夜中の歯ぎしりなどの口腔異常癖も、有力な原因として注目されています。
一番の問題は顎関節症になる原因がはっきりしていないことです。
一般に原因と考えられているものは、噛み合わせに関しては、噛み合わせの不良(むし歯、歯の欠損放置、歯並びの不正、不適切な歯科治療)、歯ぎしり、噛みしめぐせ、偏側噛み、成長期の咀嚼不足による発育異常、奇形、外傷、リューマチなどです。 噛み合わせ以外の原因としては、運動不足、ストレス、姿勢の悪さ、頬杖、性格、精神障害、体調不良、読書やパソコン、それに編み物などの「下を長く見る環境」、スポーツ時の噛みしめ(例:球を打つ瞬間の噛みしめ)、大開口、足のけが、靴の不良などなどがあげられます。
治療方法について
顎関節症の治療は、主として歯科が扱っている。原則として、原因や誘因の除去する治療法が主となり、顎の安静や咬合異常の整復を目的とした様々な治療法が存在する。潜行型の場合、外科的な治療を行うことは少なく、原因となる噛み合せの調整のため、スプリントや矯正を行う。顎の筋肉の緊張緩和のために肩こり用の医薬品なども併用される。
スプリント療法
関節円板の復位(正常な状態に戻す)や関節の安静を図る目的で行ないます。
また、スプリントを装着することで、筋肉のリラクゼーションが得られます。
歯ぎしりの緩和にもなります。
薬物療法
初期治療として、短期間(1~2週間)での除痛(痛み止め)と筋弛緩(筋肉をリラックスさせる)を目的として消炎鎮痛薬や筋弛緩薬を用います。
理学療法(低周波療法、寒冷療法、温熱療法)
痛覚閾値(痛みの感覚)を減少させる方法です。
また、筋組織への血流を増加させ、あご周囲の筋肉をリラックスさせる治療法です。
手術療法
外来治療で改善が得られず、かつそれ以上の症状改善を希望する患者様には、入院、全身麻酔下の手術が適応されます(関節鏡視下剥離授動術、開放下関節円板切除術などがあります)。
外科手術では90%前後の成功率が期待できます。
歯ぎしりやストレスの抑制
歯ぎしりなどの日常的なクセが顎関節症発症に関係していることが多く、また日常生活における精神的ストレスも、歯ぎしりなどの筋肉の緊張に関わっています。
咬合治療
咬合治療は、噛み合わせの異常が関与していることが疑われる際に行ないます。基本的には、スプリント装着で改善が認められるにも関わらず、非装着状態では再び症状が出現する場合に限定して行なう治療方法です。 治療法は病状によってさまざまですが、一般的なものとしては、プラスチック製の口腔内装置であるスプリントを装着して、咀嚼系のリハビリテーションを行なうスプリント療法や理学療法、薬物療法、噛み合わせを治す咬合治療などがあります。とくに症状が重く、顎関節の構造がいちじるしく変化している患者様に対しては外科療法も行なっています。
もっとも手軽な顎関節症のチェック方法は、「口を無理せず大きく開いた時に、指を縦にして何本入るか」を調べるというものです。正常であれば3~4本入りますが、顎関節症の場合は1~2本しか入りません。